春の老人

その日、僕が務める特別養護老人ホームで異変が起きていた。
車椅子生活の菊江さんも、喋れない喜八郎さんも、寝たきりの操さんも、ヨロヨロの清さんも、ピンピンしてシャキシャキと動いてるではないか。
職員たちはどよめいた。
老人たちは「新生活じゃ！」と口々叫ぶと荷物をまとめ、出ていった。
外を見ると、たくさんの老人がシャキシャキと列をなして歩いている。この現象はうちの老人ホームだけではないようだ。テレビには、老人が列になり、合流し、太い川のようになっていく様子が映し出されていた。

老人たちは太平洋側の海岸線に集まった。すると大きな爆発音とともに、大きな島が海の中から現れた。海が二つに割れ、島への道ができる。老人たちは次々と島へ渡り、全ての老人が渡り切ると、海は元通りに戻った。

日本中が固唾を飲んで見守る中、老人たちを乗せた島はプヨプヨと浮かびながら海を流れていき、やがて地平線の向こうに消えた。