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晩冬に旅行先のブラジルから帰国した直後、その症状が現れた。
四分のニ拍子のリズムを聴くと、血が漲るかのように体を流れ、首から下が勝手に動き出す"血湧き肉躍る ”状態になるのだ。
あんなにのほほんとした奴だったのにと周囲は驚いた。何より一番驚いたのは当人だ。
病院の診断でわかったのは、それがサンバ病というウイルス性の疾患だということ。
「治しようのない病気でね、でも命に関わるものではないし、すぐに慣れるでしょう」
なんと悠長なことを言う医者だ。まるで以前の僕みたい、こいつに血を分けてやりたいくらいだ。こうなったら自力でなんとかしてやる。
だが、それも手遅れだと疑い始めたのは半年前、もはや確信に変わっている。
恐らくウイルスに脳をも侵され、眼球もやられたようだ。
なぜなら今でもリズムが聴こえる度に、踊りながら血眼になって治療法を探しているのだから。
ホラー
公開:19/03/06 14:21
更新:19/04/04 21:38

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