花神の庭~ダフネ随香(ずいこう)

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目が覚めて、口を濯いだ水が酸っぱいと、来たなと判る。
先代から庭を継いで以来、こいつだけは毎年だ。大して面倒もないので放っておく。僕が送らなくても、やがて独りで昇る。
声も手も一度も掛けた事がない。

強過ぎる香りが味に変換される。庭だろうが、家の何処だろうが一色に染まる。食事も全部同じになる。時の固定された身体には単に嗜好品だから、半月程口にせずにおく。それでも浸食する。唾液や汗や血まで味がする。
さすが、太陽を振った女の面影を引く花。自分に靡かない奴は気に入らないか。
根競べで僕に勝とうなんて無謀だ。流しに捨てた水が、ちゃぷんと撥ねて目に入った。

流しに戻る数秒で悟る。
――あぁ、樹にも寿命があったな。

「ことどひし、いはね、きね、たちくさのかきはをも、ことやめて。あまのいはぐらはなち、あまのやへぐもを、いづのちわきにちわきて。かく、よさしまつりし」
次の雫は、普通の涙の味がした。
ファンタジー
公開:19/03/04 20:00
更新:19/03/07 18:10
沈丁花(ウィンターダフネ・ 瑞香) :栄光・不滅・甘い思い出

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

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