花神の庭~菅公献歌(かんこうけんか)
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枝垂れ梅の咲き初めた枝に、掛け軸が橋を架けている。
花神(はなかみ)は、年により形態も性格も違い、文献を漁っても、参考にもならない事が多い。しかし、今年はえらいのが来た。
天神菅公(てんじんかんこう)――俗に怨霊と称ばれる類の花神でも、五指に入る曲者。扱いを誤れば、魂ごと塵にされる。何代先か知らないが、そうして消えた花守り(はなもり)もいるとか。
「あらぶるかみたちをば、かむとはしにとは……っ」
途中で舌が止まる。
ズン。頭に圧力が被り、跪かされる。風がねっとり重く黴(かび)臭い。
拍手(かしわで)で祓えるわけがない。打とうと思うだけで、多分終いだ。
軸がすとんと開き、芯に巻いた筆が転げ――と見る間に、筆を取って軸を前にしていた。黄ばんだ和紙に墨が滲む。
『東風吹かばにほひ起こせよ梅の花 主なしとて春を忘るな』
書いた。
風がふっと震え、ほろ甘く香りながら、掛け軸を攫って空へ散った。
花神(はなかみ)は、年により形態も性格も違い、文献を漁っても、参考にもならない事が多い。しかし、今年はえらいのが来た。
天神菅公(てんじんかんこう)――俗に怨霊と称ばれる類の花神でも、五指に入る曲者。扱いを誤れば、魂ごと塵にされる。何代先か知らないが、そうして消えた花守り(はなもり)もいるとか。
「あらぶるかみたちをば、かむとはしにとは……っ」
途中で舌が止まる。
ズン。頭に圧力が被り、跪かされる。風がねっとり重く黴(かび)臭い。
拍手(かしわで)で祓えるわけがない。打とうと思うだけで、多分終いだ。
軸がすとんと開き、芯に巻いた筆が転げ――と見る間に、筆を取って軸を前にしていた。黄ばんだ和紙に墨が滲む。
『東風吹かばにほひ起こせよ梅の花 主なしとて春を忘るな』
書いた。
風がふっと震え、ほろ甘く香りながら、掛け軸を攫って空へ散った。
ファンタジー
公開:19/03/04 16:00
更新:19/03/05 19:51
更新:19/03/05 19:51
梅:高潔・忠実・忍耐
引用の歌は、菅原道真の詠です。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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