回線所

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街から電波が消えて久しい。

今の若者は回線を繋げたことがない者もいる。彼らは思念で対話をするので、私のような古い人間は思念送受信機がないと何を考えているのか分からない。

回線が当たり前だった時代が懐かしい。誰もがどんな場所でも利用していたのに、その悪影響が取りざたされ制限がかかった。

目当ての回線所に着き、回線カートリッジを差し込んで画面を表示させる。企業もすっかり回線の情報提供から手を引いて、目の前に映るのは「いいね」や「ファボ」の墓場だ。

いつものように愚痴を書き込んだ。画面が少し黒くなった。次に嫌回線家の過剰反応も書き込んだ。次々と書き込んでいく。真っ暗になった。これでおしまい。

抜き出したカートリッジを叩いて振る。真っ黒なデジタルのマイクロチップが灰皿に積み上がった。思念送受信機を着け直し、回線所を出た。

街には電波の代わりに、前向きで正しい思念に満ち溢れている。
SF
公開:19/03/10 00:35

こんの( 横浜 )

劇団コピュラというユニットを催しています。

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