文担

私は『文部科学省預り処公文書担当部署』に勤めている。
小難しくてやたら長い名前だから略して『文担』と呼ばれることが多い。
文担の仕事はまるでリストラ前のサラリーマンだ。各省庁に収められている埃をかぶった公文書の整理である。
やってもやらなくてもいい仕事。文科省から出向させられていることから皆、一応気は使ってくれているが陰で「無能なおじさん」「給料ドロボー」と嘲笑う。
私は内心ほくそ笑む。よしよし。誰も私に警戒していない。
私は公文書の隅々まで確認する。少しでも異変や問題や疑問を感じたらすぐに報告だ。
君らは思ったことがないか？どんなに権力のある者でも何故か悪事が明るみに出る不思議に。もみ消しできなかった迂闊さに。
それは我々文担が、まさに文旦を食すかの如く、その厚い皮にメスを入れ、渋皮を剥ぎ取り、中の果実を掘り出しているからだ。
文担は汚職者に必ず苦汁をなめさせる。それが文担の仕事である。