三月四日 月曜日(雨)

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 昨日からの雨が上がらない朝。ディーラーで車検の説明を受けながら、
「雨が止むといいね」と妻が言った。
 代車はEV車だった。ワイパーやドアミラーの調整をしながら、ラジオをつける。チャゲアス、藤井フミヤ、浜崎あゆみ…
「30年前の曲ばっかり」と妻。
「ドラレコがあるから言葉に気をつけないといけないよ」と私。
 なぜか茨城県の住所が設定されていたカーナビの案内音声を聞きながら駅へ向かう。
 薄日が射すと、路面からの照り返しで目が眩んだ。駅前のスクランブル交差点を横断する人々はみな、後ろ手にスーツケースを引いていた。
「みんな、雛人形は片付けたのかな?」と、私は妻に尋ねる。
「どうかな」と、妻はスマホを見ながら言う。
 私たちは駅に、明後日からの旅行の切符を取りにいくのだ。
「雨が止むといいね」と妻が言った。
「目的地付近です」とカーナビが言った。
『本当にみんな雛人形を片付けたのだろうか?』
その他
公開:19/03/05 10:36
更新:19/11/22 11:12

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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