サラン・ラップの魔法

サランラップには魔法がある。そう教えてくれたのは母だった。おにぎりを結んでラップに包む。ラップの中にはおにぎりと、家の空気も懐かしい思い出なんかが、そうと優しく包まれているのだ。
「お姉ちゃんにあげようね」
母が笑う。私の姉は家を出た。憧れの街。憧れの一人暮らし。憧れの大学ライフ。天真爛漫に飛び出してそれっきり音信不通。だけど母は黙っておにぎりを作る。
「知らない街で、頑張ってるの。魔法を一つ贈りましょう」
ひとりぼっちで疲れ果ててるあの子の部屋に、サランラップのメッセージを送りましょう。

深夜に帰ると、部屋に箱があった。開けると援助物資とおにぎり。合鍵で入ったのか。
「子どもじゃあるまいし」
一口かじった。子どもの頃に食べたのと変わらない味だ。運動会や遠足。家族とのピクニック、試験勉強中の夜食の差し入れ。変わらない、お母さんの味。
「子どもじゃあるまいし」
週末、家に帰ってみようかな。