弁当箱

21
17

一人暮らしの初日から、ひどいホームシックにかかってしまった。実家のことばかり考えて、何も手に付かない。食欲もわかない。
そうだ。家を出る時に母さんが持たせてくれた弁当箱があったな。ゴソゴソとカバンを漁った。ん?やけに軽いな。フタを開けると空だった。
「なんだ、何にも入っとらん。母さん慌てとるな」
はぁーと大きなため息をつく。
「しっかりせんか!」
母さんの声だ。
「ちゃんとご飯を食べなさい」
弁当箱だ。弁当箱から声がする。

それから僕が寝ようとすると弁当箱から「おやすみ」が聞こえたり、大学から帰ると「お帰り」の声がしたり。しばらくすると、弁当箱から聞こえる声は段々少なく、小さくなり、全く聞こえなくなった。かわりに僕は、弁当箱に向かってなんとはなしに毎日話しかけるようになった。

新しい生活になれた頃、僕は東京土産と一緒に弁当箱を母さんに送った。

今度は母さんに、弁当箱が話しかける番だ。
その他
公開:19/03/04 22:18
更新:19/03/07 12:14
新生活

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容