随筆 「新生活」に寄せて

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 インターネットから『週刊・新生活』に随筆を求められたので書いてみる。
 生活環境が変化して十年。今朝は表に雉の声を聴いた。起き上がるとシーツの襞が作る影がおもしろく、スケッチしていると妻が「西京焼きを焦がしました」と言う。『雉啼くや西京焼きの焦げし朝』と詠んですこぶる気分がよい。
 インターネットのニュースを見る。隣県では鶯が鳴いたそうだ。「うちはどうかね?」と妻に尋ねると、「来週くらいの予報だそうですよ」と、SNSで仕入れた話を披露する。私は焦げた西京焼きを絵手紙風に書きながら、『初啼きに渡り初めたる谷間かな』と季の判然としない句を詠み捨てる。
 今日は配給日なので、各所のフィルターを交換し、汚物パックと共に隔離壁の外へ出す。エアパッキンの調子が悪く、咳き込む。
 皆様と同じく地下の狭いシェルターに過ごす身ではあるが、スケッチと俳句のおかげで、私にとっては時々刻々が『新生活』である。
SF
公開:19/03/02 18:09
更新:19/03/02 18:11
新生活

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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