寄り添う温度

‪幸福を得たとき人は深淵を覗く生き物なのだろう‬。
終わりまで寄り添いたいと思った人に愛してもらえた日、私はその重さに逃げ出したくなった。

「君と歩いていきたい｣

プロポーズの言葉は相手に伝わるものでなければならない。だからこそ、独創的なものではなく簡素なものの方が誠実さがわかりやすい。そんなことを地元の図書館に住む友人が話していたことを思い出す。

「……｣

ありがとう、嬉しいわ、私も……私もあなたを愛している。それだけのことなのに、そう答えるのが怖い。私は自分が愛することに怯えてしまう人間だと今この瞬間まで考えたことすらなかった。

「私が転びそうになったら支えてね｣

それでも、この手を離したくないのだと伝えたくてできる限り優しく微笑む。

想いを伝えるには今はもう安易な言葉だけれど、たくさんの人々が扱い、重ねてきたものだからこそ、意味がゆらぐその五文字を私たちは紡げなかった。