娘と母と娘の話

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「それじゃあね」

そう言って彼女は家をあとにする。
まるで近所へ買い物にでも出かけるかのように。

「まったく、あの子は一回も振り返らないで……」

歩いていく彼女の後ろ姿を、玄関で見送っている母が小さくつぶやいた。
入学式の日も、修学旅行の日も、卒業式の日も、試験の日も、成人式の日も、結婚で実家を去る今日ですら、母へ振り返る事を彼女はしていない。
ただ前だけを見て、新しい未来に思いを馳せて……。

だがそれは、母が母になる以前の若き頃も同じだった事。

子の後ろ姿を見送る母がどういう気持ちで眺めているのか、それは母にならなければ知り得ない。
涙ぐんでいる事も、その意味も。

これから新たな生活を始める彼女にも、それを知る日がいずれ訪れるのかもしれない。
その時はきっと、今の母のように母の事を思い出すのだろう。
その他
公開:19/03/01 20:24
更新:19/03/06 21:59

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