海の子と火の子

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――時間だ。
火の子フォボスの『声』に、海の子トリトンは固く目を瞑りました。
――駄目だ。いけないフォボス。
『声』を返しても、意味のない事は判っている。とうの昔から判っていたのです。
手が届くなら、碇になってフォボスを留めたい。自ら宙(そら)を渡れたなら、トリトンは迷わず駆けて行って、共に主星の引力に抗い、自由を勝ち取ってみせるのに。

――じゃあ、行くね。
――待って!待ってフォボス!

―――まで、 りがと トリ、、、

、、、。


昏い宙は、どこまでも静かでした。
フォボスが粉微塵に砕け、主星の窪地の一つになった、
まさに燃え落ちる瞬間であったというのに。

数十億の距離を超え、フォボスの『声』が届いた理由も、トリトンは気付いています。主星と逆行し逃げ続ける自分も、いずれ疲れ果て停止し、同じ運命を辿る。これは共鳴振動なのです。
おそらくその時も、宙は穏やかに凪いでいるのでしょう。
ファンタジー
公開:19/02/27 00:00
更新:19/02/26 22:30
海王星の衛星トリトンと 火星の第一衛星フォボス ロッシュ限界と惑星衝突 小泉八雲「鳥取のふとんの話」

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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