太一君と南十字

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北天を統べる太一君に、南天の十字星が問いました。
「太一君よ、北天の星は貴方を中心に回る。貴方は常に座しておいでで、足が痺れはしませぬか?」
全天八十八の最小星座で、有名無実などと揶揄される十字星には、泰然と尊崇を受け続ける太一君が、羨まれてならないのです。
「私が動けば、天の羅針は崩れ、旅人や星読みは方角を失う。私は標(しるべ)として、役目を全うするのみ」
太一君は、紫の薄絹越しに答えました。
「僭越ながら、私も南天の徴(しるし)。ひとつ互いの座標を変えてみては?映る景色が異なれば、趣も変わりましょう」
言い募る十字星に、薄絹が笑う様に揺れました。
「生憎、もう千年後には、私は元の星座に返り、次の太一君が登る。変わらぬ名で称ばれ続ける貴殿こそ、私には羨ましい」

十字星は言葉を失いました。
薄絹を脱がない太一君の、姿も元の名も、それが己の知る太一君か否かも、十字星には判らなかったのです。
ファンタジー
公開:19/02/24 13:50
太一(北極星)と南十字星 歳差による北極星の遷移

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

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