春二番

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「こんちわ。春二番と申します!」
ドアを開けると、若い男が立っていた。
「二番⋯⋯一番じゃなくて?」
「ええ、姉の一番がインフルに罹ったんで、わてが代わりに風を吹きに回っとるんですよ」
男はぼくの家の奥を覗き込むと、ズカズカと上がり込んできた。
「ちょっと、困ります!」
「いやあ、長旅で少々疲れましてナ」
冷蔵庫を物色すると、お昼に取っていたコロッケをつまみにビールを吞み始めた。
春二番と名乗る男は時折申し訳程度に生暖かい風を起してくれたが、いくら経っても出て行こうとはせず延々と酒を吞み続けた。

とうとう正体を失って酔い潰れた頃、ドアのベルが鳴った。
「春一番と申します」
「はぁ」
目の前には美少女が立っていた。
「冬将軍との戦いで苦戦している間に、弟が勝手にやった事でございますゆえ⋯⋯」
少女は深々と謝りながら男を担いで立ち去った。

あとには、春一番の暖かい風が吹き抜けていった──。
ファンタジー
公開:19/02/25 14:16

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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