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新生活に向けて、引っ越しは以前と同じ業者に宅風便で依頼した。
麗らかな陽ざしの下、必要最低限の荷物を玄関前に揃えたら、彼との苦い思い出の品は捨てて行こう。
時刻通りに現れた配達員の対応は、察しているのか興味が無いのか、涙目の私を見ても作業服同様に味気ないものだった。
そんな口調も態度も事務的な青年が「ヨースコー!」と声を上げたとき突如陽炎が立ち昇り、剥き出しのままの荷物がふわふわと宙に浮かんだ。
チュニック、マグカップ、タオルケットが春風に揺られて新居の方へ流れていく。なんて滑稽で微笑ましい光景だろう。
本当、事務的な青年で助かった。
目指すアパートは桜の木が生えた高台の下。風の便りで聞いた住所はやっぱり合ってた。
あの慌てよう相変わらずね。二階の窓から入ってくるのだから当然の反応か。でも本当に驚くのはこれから、最後の荷物が残ってる。
彼、桜の花弁と入った私をどんな顔で迎えてくれるかしら?
ファンタジー
公開:19/02/24 22:32
更新:19/03/12 18:56

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