春に眠る

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その年の一番最初の春の日に僕は死ぬと決めていた。
春の海は冷たくて、僕は少し苦しんだけれど、その後にやってくる静謐を信じていた。満天の星空。その星のひとつひとつに瞳で口づけを贈った。僕も今、そこに行くよ。
星になった僕は地上を見下ろす。
教室の窓辺で女の子たちが内緒話をしている。生きていた時には癇に障った仕草も今は可愛らしく思えるよ。
人や山や動物が生きる世界を僕は星の瞬きが揺れるままに眺める。
世界は美しい。きっと生きていた頃の僕も美しかったのだろう。
花が笑った。岩が歌った。
僕は死んで星になり、望んだ通りの静けさを手に入れた。世界はこよなく美しい。その最中にいないからこそ、ありのままに美しさだけを愛でることが、今は出来る。
僕は彗星に乗って、遠い遠い宇宙へ旅立つ。大好きだった世界にお別れを告げよう。
ファンタジー
公開:19/02/20 22:52
更新:19/02/23 14:37

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