壁猫。外伝⑥~解渡し(かいわたし)

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残りても、かひあるべきは空しくて、かひあるべきは空しくて
――駄目だ、乗らない。

夜の音楽室、無断で歌ってた。ばれた以上、ここは俺のシェルターじゃない。

あるはかひなき帚木(ははきぎ)の、見へつ隠れつ――

能の『隅田川』狂った女が、死んだ子供に念仏を唱える。子供が墓から応え、幻が現れ。でも、朝には元の木阿弥。
子供と三途を渡る櫂(かい)もなく、狂ってまで呼んだ甲斐もなく、何も救われない母子。どこが名作か解らない。

『カンゼ!!』
怒った声でも、ふざけた調子でもなかった。飛んだボタン、拾ったか訊こうか迷って。
俺は『落書き』の名前も知らないし、あいつはずっと学校に来ない。

もう半年。卒業近いし、自然消滅か。たった一声で俺に気付いた、あいつの絵。そこに答えがある気がした。
壁の猫に向かう勇気は持てず、先生に訊いた。

『落書き』は、あの日車に撥ねられてた。
俺が振り切った直後だった。
ミステリー・推理
公開:19/02/21 19:10
更新:19/02/22 18:42
壁猫。エピソード1・7(B) 引用:能『隅田川』 ※謡の解釈は独自に付き、 原典とは多少異なります。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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