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先輩は、幼い頃からこの陸橋を渡ってピアノ教室へ通っている、と言っていた。陸橋の下は高速道路だ。歩道は車道よりも一段高くなっていて、両側に水色の手すりがあった。過去に一度、そこに花束や缶ジュースが大量に放置されていたことがあって、それらが撤去された後、フェンスの外にフェンスの5倍ほどの高さで、天辺に有刺鉄線を巻いた金網が立った、と言っていた。陸橋を両側から包み込むかのようなその巨大な金網は、作りかけの天蓋のようにも、壊れた鳥かごのようにも見えた、とも言っていた。
その金網がすっかり錆びて、フェンスが色褪せた今も、先輩はピアノ教室に通っていた。
先輩は、「この陸橋を渡るときは欠かさず、水色のフェンスと有刺鉄線には絶対に触っちゃだめだと、呟き続けているんだ」と言っていた。そうしないとどうなるのかと尋ねると、先輩は、
「分からない。明日試してみようかな」と言っていた。
翌日、先輩は死んだ。
その金網がすっかり錆びて、フェンスが色褪せた今も、先輩はピアノ教室に通っていた。
先輩は、「この陸橋を渡るときは欠かさず、水色のフェンスと有刺鉄線には絶対に触っちゃだめだと、呟き続けているんだ」と言っていた。そうしないとどうなるのかと尋ねると、先輩は、
「分からない。明日試してみようかな」と言っていた。
翌日、先輩は死んだ。
ホラー
公開:19/05/17 19:51
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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