白鳥の湖と人魚姫

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ツェムリンスキーより、チャイコフスキーが聴きたい気分なの。
そう言ったら、貴方はスケッチを中断して、少し苛立った押し方でCDを止めた。バスタオルで髪と濡れた足を拭く間に、オーケストラの曲調が変わった。
固い掌に移ったHBの鉛筆。Bよりマシだけど、鈍い様でぎらついた黒も、シャンプーを掻き消す炭の臭いも苦手だった。――曲の音量が上がる。リピート設定の目的が露骨で、いっそ浴室へ回れ右したくなった。

描いてくれるより、もっと二人で話したかった。
大学の講義みたいなレクチャーじゃなくて、些細で、軽くて、ただ笑う為に笑う様な、貴方曰くの無駄話がしたかったのに。
利口ぶって、貴方のペースに合わせるのに疲れた頃、貴方は私より疲れて、おざなりの時間を持て余して、別れ話のきっかけばかり探してる顔だった。

本当は、それでも引き留めてほしかった。
今更待ってみたって、貴方の手は、二度と私を汚しはしないのにね。
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公開:19/05/17 00:01
更新:19/05/17 20:12

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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