夏休みの自由研究

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 たわむれに、扇風機の透き通った羽根の一枚を黒く塗りつぶした夏休みのことだった。
 扇風機に向かって「あ~」っとやるのが面白くて、これを夏休みの自由研究にしようと決めた。僕が扇風機の前に座ると、弟が扇風機の後ろにかしこまった。僕たちは扇風機の首振りにあわせて、風量をポチポチと切り替えながら「あ~」とやった。そのうち、首振りを止めておいたほうが「あ~」をやり易いことに気づいた僕は、弟を説得して首を固定した。僕と弟とは、扇風機の羽根越しに互いの顔を見つめながら「あ~」を繰り返した。
 風量を涼風から微風に切り替えた時だった。突然、ほんの一秒くらいの間、弟の顔がなくなって、その後ろにある縁側の外の庭が見えた。僕はもう一回それを見たくて、もう飽きていた弟を説得して、風量ボタンポチポチ実験を繰り返した。羽根の回転数と相関があるのではないかと僕が思い始めた時、弟が泣きだし、母がカルピスを入れてくれた。
その他
公開:19/05/18 13:24
更新:19/05/18 13:24

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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