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「三つの三角」
断崖の斜面に広がる緑と白に膝を埋め、先輩が見ているのは図鑑の写真だった。
実物が眼前にあるのに、両手に展開する平面から離れない。見事な六芒星をカメラに収め、僕は二つの三角の交点が結ぶ小さな三角を、模式図として頭に描いている。
「パーツは三つに分解出来る」
先輩は恐らく、花弁の接点を、蝶の羽を捥ぐ様に、ばらばらに解体した映像を浮かべている。『胡蝶花』は先輩の好きな別名で、僕は背伸びをして『アイリス・ジャポニカ』と学名で称ぶ。紫を帯びた白。青。橙。僕の中では大小の三角が、講義で使うスライドの要領で投影機から外されて行く。先が二股の最小の三角は、某サイダーのロゴを思わせ、つい生唾を飲んだ。
先輩の白衣とシャツとデニムが、丁度同じ配分に染め分かれている。風にはためく寒色の白は、羽ばたく寸前の蝶だ。
僕は図鑑を見る顔をして近付いて行く。
後ろに逃げ場のない事を、まだ先輩は気付かない。
断崖の斜面に広がる緑と白に膝を埋め、先輩が見ているのは図鑑の写真だった。
実物が眼前にあるのに、両手に展開する平面から離れない。見事な六芒星をカメラに収め、僕は二つの三角の交点が結ぶ小さな三角を、模式図として頭に描いている。
「パーツは三つに分解出来る」
先輩は恐らく、花弁の接点を、蝶の羽を捥ぐ様に、ばらばらに解体した映像を浮かべている。『胡蝶花』は先輩の好きな別名で、僕は背伸びをして『アイリス・ジャポニカ』と学名で称ぶ。紫を帯びた白。青。橙。僕の中では大小の三角が、講義で使うスライドの要領で投影機から外されて行く。先が二股の最小の三角は、某サイダーのロゴを思わせ、つい生唾を飲んだ。
先輩の白衣とシャツとデニムが、丁度同じ配分に染め分かれている。風にはためく寒色の白は、羽ばたく寸前の蝶だ。
僕は図鑑を見る顔をして近付いて行く。
後ろに逃げ場のない事を、まだ先輩は気付かない。
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公開:19/05/14 19:05
射干(シャガ)/胡蝶花
アイリス・ジャポニカ
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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