風碧(かざみどり)

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小馬鹿にする様な嗤い声だった。
気に食わないから、屋根によじ登り、高枝鋏でぱちんと切った。
緑青に錆びた風見鶏の頭は、耳障りな女の金切り声を引きながら、横向きに首を傾げ、嫌にゆったりした速度で落ちて行った。
不燃ゴミに出そうと、庭に下りて、切ったばかりの鶏冠を探したが、びっしり蔓延る雑草に紛れて見付からない。躍起になって手当たり次第引っこ抜いていると、どれかの根っこから睫毛の様な緑色の毛虫が出てきた。横っ腹に目玉そっくりの斑点のある毛虫で、ああ、こいつがさっき嗤ったやつだと気付き、もう一度鋏を構えた。
じりじり距離を窺う間に、毛虫は悠然と楓の幹を這い、葉をくるりと丸めて動かなくなった。鋏の刃が届く寸前、巨大なオオミズアオが離陸し、頭の無くなった風見鶏の胴体に勿体ぶって着地すると、錆を着込んで鶏冠の形に固まった。

――目が覚めた。
屋根の上から声が聞こえる。
小馬鹿にする様な嗤い声だった。
ホラー
公開:19/05/16 22:00
更新:19/05/16 21:36

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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