水魚の交わり

4
7

6ミリ罫線のノートに、大学時代のスケッチが残ってた。
懐かしいな。シャワーで濡れたまま佇む君の足に、透明な鱗模様が伝う1分間。フィルムより、鉛筆の方がクリアに切り取れる気がした。
この頃はHB使ってた。本当は、Bの柔らかく擦れる線が好きだけど。綺麗にしたところへ、汚れが移るのは嫌だって君が脹れるから。角度が変わると鈍く光る炭色、一風変わった刺青みたいで、俺は色っぽいと思ったんだけどね。

そう言えば大学で、水魚の交わりって言葉を習った。
三国志に出て来る言葉で、一般的に、欠くべからざる親密な交際を指す。元々、夫婦の仲の良さを表す言葉だったらしい。
ビルの海でヒールを履いた君は、正しく水を絶たれた魚で、俺といても窒息して弱るだけだった。俺は俺で、溺れる覚悟で君の世界に飛び込む度胸がなかった。

今、どんな手が君の足に触るんだろう。
叶うなら俺は、君を汚さず、自由に泳がせる手を持ちたかったよ。
恋愛
公開:19/05/17 00:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容