辞書ロック・ホームズⅥ

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「ねぇ辞典先生。相談なんだけど」
尖った唇に内心の屈託は窺えつつ、若い子に頼られるのは嬉しいものだ。内容は概ね察しが付く。
「お父さんの誕生日」
「ば…ちょ、声でかいよ……!」
「老人ホームよ。大抵の入居者は耳が遠いわ」
ついでに渦中の人は休みで、他の職員さんは付近にいない。そこを加味する辺り、利発な娘さんだ。
「先生は知ってるよね。うち父子家庭でさ、色々苦労してんだ。今お父さん、通信大学入ってて。要は、直接通うお金も暇もないのね。んで、アタシ最近バイト始めたから」
「初任給でプレゼント?」
「ほら、お父さんの辞典、マジぼろいじゃん。新しいやつ買ったげるの……お節介かな」
本当に良い子だ。微笑ましくて、正直羨ましい。
「ぜひそうして。ただし」
「ただし?」
「買うのは貴方の辞書。お父さんと一緒に選ぶのよ。その方が何倍も喜んでくれるわ」
この意味を心底実感するのは、彼女が親になった時だろう。
ミステリー・推理
公開:19/05/12 23:39

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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