れいぞうこ

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吸引力の変わらない、ただひとつの冷蔵庫と聞かされていた。
「最期にもう一度言うぞ。決して開けてはいけない」
父は母を追うようにして死んだ。俺一人で、どうすりゃいいんだよ。
「開けた過ぎるだろ」
父が命を引き取った三分後にはその両開きのドアに手をかけていた。世界の吸引がはじまった。死んだ父と俺なんてあっという間。家財道具が次々飲まれ、ガラス戸が瞬時に砕けた。アパートは冷蔵庫を中心に圧縮をはじめたかと思えばすぐ消えた。冷蔵庫が街に飛び出した。人々は逃げ惑うが駄目。車は暴走するが無駄。地面ごとズルズル吸い続けるうち自分の吸引力で倒れる。冷蔵庫は地中に引きずられ、地球は括れる。地球の裏側で異変に気づいた人々も次の瞬間に吸われていた。月もチュッと。膨張しているとされていた宇宙の収縮がはじまった。何も無い部屋とは、部屋中のものを取り除き、時間も空間もなくなった様子のこと。冷蔵庫はバタンと閉まる。
SF
公開:19/05/13 22:25

puzzzle( 神奈川19区 )

作文とロックンロールが好きです。
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