辞書ロック・ホームズⅨ(完)

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「先生、これでどうです?」
「そうねぇ。まぁまぁかしら」
「辞典先生、採点甘過ぎ。アタシに貸して」
すっかり恒例のやり取りに、ホームの皆が目を細める。老人の毎日は往々にして静かだ。時折賑やかさに触れると、張り合いが出て良いと言う。
今日は馴染みの職員さん親子と、辞書の修繕。私の助言通り、自分の辞書を買ったものの、やはり娘さんは、父親の使い古しが気になるらしい。
「上手いわね」
「裁縫とか得意だもん。良いお嫁さんになるよ」
「自分で言うな。第一まだ早い」
素敵な親子だ。微かに羨ましさも兆すけれど、それ以上に心が温かい。
「ところで先生ってさ、幾つ下までOKな人?」

「お、おい!言うに事欠いて、お前……!」
「アタシ別に、お父さんの事って言ってないけど」
「先生。娘の戯言は、真に受けんで下さい」
「あら残念。貴方タイプなのに」
「……え!?」
笑い声が陽だまりに弾ける。風は五月の匂いがした。
ミステリー・推理
公開:19/05/13 22:10

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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