辞書ロック・ホームズⅣ

「ババアじゃん」
馴染みの職員さんに付いて来た女の子が、座った私を見下ろして言った。
「先生に失礼だぞ！」
年代からして娘さん。気は強そうだが、悪い子ではない。
「あんた、この辞典作った人？」
狼狽する父親をよそに、彼女は立ったまま、例の辞典を構えた。
「どの単語が何ページか当ててみて」
「受けて立ちましょう」

「国語」
「４１９ページ上段８項。『刻限』と『国号』の間」
答えを確かめ、女の子が紙の間から私を睨む。
「本」
「１１３８ページ中段２項と、巻末漢字表９０ページ下段６項」
「出版社」
「６００ページ中段１項、『出版』用例③」
「携帯電話」
「……」
「判んないんだ」
「その版には無いわ。次版３８１ページ上段１０項、『携帯』用例②」
「何で、そんな……」
「自分の子供だもの。何万項でも、全部大切。貴方がお父さんを大切に思うのと同じ様に」
家事に慣れた手が、国語辞典をきゅっと握った。