紐恐怖症の診断と治療

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 換気扇の紐も蛍光灯の紐も、蔓が垂れているのも怖い。怖いので触れたくないのだが、引っ張りたい衝動も同時に起こるので、プールでビキニの紐、電車でブラ紐を引っ張っては訴えられ続けていて、周囲からカウンセリングを勧められた。退行催眠でトラウマを特定し、向き合うことで克服できるという。
 施術の後、縄跳びが首に巻きついたことや、飛びついた枝が折れて崖に落ちたこと、吊下がっていた誰かの足にしがみついていて怒られたことなどを思い出していた。だが、それらは根本原因ではないという。
「それは臍の緒でした。生まれたくなくて必死にしがみついていたのです。紐は意に反して生まれてしまったことの象徴で、つまりあなたは、生きることを恐れているのです」
 医師は確信に満ちた顔で、そう宣言した。
「ならば、紐を死の手段にすれば治るわけですね?」
 私はそう理解し、まずは目の前の医師に対して、その治療法を試したのだった。
ホラー
公開:19/05/10 11:04

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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