スリッパ地獄

家に帰るとスリッパがある。だから帰りたくない。
外出から帰ってきたとき、玄関に入るのが憂鬱で仕方なかった。扉を開けるとまずスリッパ。
靴を脱いでスリッパに履き替える必要があるのだ。それから廊下を歩くときのスリッパ。このスリッパは、廊下ごとに変える必要がある。一階の廊下と、二階の廊下に分けられているのだ。
続いてトイレのスリッパ。これはわかる。それからリビングのスリッパ。これもまだわかる。それでもって、寝室のスリッパ。和室のスリッパ。キッチンのスリッパ。お風呂場のスリッパ。子供部屋のスリッパ。スリッパスリッパスリッパスリッパ。
場所ごとにスリッパを一々履き替える必要があるわけだ。なんて地獄だここは。
この地獄を生み出した妻に訪ねる。どうしてこんなスリッパまみれにしたのかと。
妻は答えた。「スリッパが好きだから」らしい。