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 俺は河原に座り込んだまま、手元に転がっている石を掴み、川に向かって放り投げた。川面に丸い波紋が広がっていく様子を、俺はぼんやりと眺めた。川に石を投げることくらいしか、俺には思いつかない。全くの暇なのだ。
 こんな俺にだって仕事はある。俺は、この川で渡し守をしている。そう、ここは三途の川。俺は三途の川の船頭なのだ。
 地上で死んだ生き物を、向こう岸のあの世へ連れて行くのが俺の仕事だ。いや「仕事だった」と言った方が正解かもしれない。なぜなら何の前触れもなく、ある日を境にして、三途の川に虫一匹さえやって来なくなってしまったのだ。
 異変以来、渡し舟は開店休業状態だ。何もすることがなくなって、何日経つだろう…
「いったい、どうなっちまったんだよ!」
 俺は、もう一度、手元に転がっている石を掴み、川に向かって放り投げた。今度は、三途の川特有の生温かい風が、川面の波紋をゆっくりと消し去っていった。
ミステリー・推理
公開:19/05/11 21:39

黒柴田マリ( ヨコハマ )

黒柴田マリと申します。ショートショート、大好きです。あと、リンゴも大好きです。

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