しあわせをかくひと

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「私の兄は有名な物書きだったの」

それは想像できうる幸福すべてが詰め込まれた夫婦揃っての朝食の席で妻が初めて語った家族の話だった。

「すごいな、物書きってのは賢いやつがつく仕事だ」
「そうね、兄は賢かったし、なかでも幸福を書くのがとても上手いと評判だったの」
「何を書いた人だろう。私も知っている人かな?」
「……そうね。きっと知っていると思うわ」

とろとろのスクランブルエッグをゆっくりと咀嚼してどこか寂しげに笑った妻が告げた名前には、たしかに聞き覚えがあった。

「本当にやさしい物語を書く人だったのよ」

私はその物書きを知っていた。
名前だけなら、きっとこの国の人は全員知っている。
けれども、その中で彼女の兄が書いた本をちゃんと読んだ人は多くないだろう。かくいう、私も彼が書いた本は人殺しが書いたものだからと決めつけて読んだことはなかった。
ミステリー・推理
公開:19/05/11 18:52
作家 夫婦

ふみ はじめ

最近とても困っていることはハンバーガーを上手に食べることができない事です。

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