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その男は優れた仏師だという。
私は知人に、男と話してみないかと誘われた。
お見合いではないからと言われて、それならばと、私は男に会うことにした。仏像を彫って暮らしている人間に興味が湧いたからだ。
待ち合わせの喫茶店に知人は来なかった。私たちは自己紹介を済ませると、男が勧める食堂へと出かけた。気取りのない、しかし丁寧な仕事が感じられる季節の定食がとてもおいしい店だった。
食事中、私は男の手に心惹かれていた。武骨だが艶のある木彫りのような手だ。
男は言う。
「すばらしい木には魂を受け入れる感受性があるんです。私の仕事はそんな木と出合うことです」
確かにこの男なら、その手で仏像に命を吹きこむことができると私は思った。
食後、散歩に出た公園で、私は身体に変調を感じた。
店を出るとき、私は彼の手に触れた。彼が私の手を握り返したとき、私の中に命が宿ったのだ。
「あなたには感受性がある。だから、彫れた」
公開:19/05/11 06:37

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