星を数えて

12
9

ここは山間にあるフレンチ。外国人セレブがお忍びで通うほど味の評価は高いが、俺たち力士がこぞって通うのには他に理由がある。

それはトワイライトタイム限定のサービス。テラスに出て見つけた星の数だけ、デザートに星型チョコを乗せてくれるのだが、その数がなぜか来場所の勝ち星とぴたり合うのだ。先達の経験が証明している。例外はない。

「大関、おいくつでした?」と、旧知のギャルソンが尋ねてくる。見えた星は7つだ。

正直に答えよう。でも、引退の二文字が頭をよぎって、声がうまく出てこない。自然に涙まで溢れてくる。

なさけねえ。ぐっと堪えて下を向くと、隣の皿にチョコが残っているのが見えた。俺の視線にギャルソンが気づく。

「この時期、業界では噂が出回ってましてね。先ほどのお客さま、おそらくミシュランの調査員です。うちの取りこぼしでよければ、どうぞ、おひとつ…」


俺はぎりぎり、カド番を脱した。
その他
公開:19/05/08 23:25

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容