紫陽花

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 雨だ。
 私は一人、部屋の床に座って外を眺めている。
 昨日取り込んだ洗濯物がそのままで、ああ畳まなくちゃと思う。きちんと畳んでおかないと、また彼が怒る。
 そこで私はふと手を止めた。
 そうだ、もう怒られることはないんだ。
 昨夜、帰宅した彼は洗濯物がそのままだったにも関わらず怒らなかった。その代わり、怯える私の周りをどかどかと歩き回りながら、スーツケースに自分の荷物を次々と詰め込んで行った。
「別の女と暮らす。離婚届は後で送るから」
 意外だった。私がお願いした時は絶対離婚しないと言っていたのに。
「ふふ」
 私は笑い出した。
 庭には紫陽花が咲いている。
 紫陽花の花言葉は移り気。
 何にせよ、彼の気が変わって良かった。
 あと一日遅ければ、私は……。
 汚れなかった手。昨日とは違う色の紫陽花。
 明日には雨に流されて、何もなかったことになるだろう。

 
 
 
 
ミステリー・推理
公開:19/05/09 21:34
更新:19/05/17 13:21

堀真潮

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