天使の階段

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病床の窓から外を眺めながら妻は、力なく話した。
「ほら、あそこ。雲間から日が射して、天使の階段になっているわ。きれいね。キラキラしてる。森を通り抜けてあそこへ行ってみたいわ」
「そうだね。キラキラしていてきれいだね。きっと行こうね」
しかし、妻の望みは叶うことはなかった。
二人で行くはずだった小径を一人で行く。妻が行きたかったところへ森を抜けていく。どんよりとした空の雲間から一条の光が射してくる。天使の階段だった。一条、また一条とあちこちに日の光が射してくる。まるで、僕を誘っているようだ。
「何だい? 君はこの階段を登れっていうのかい?」
空を見上げて妻に尋ねた。
そして僕は、息を深く吸っておもむろに階段に足をかけた。
が、しばらく沈思黙考した後、「やっぱり、やーめた」と、足をどけた。
「登ってこんのかーい?!」
と、妻が雲の上から叫んだようだが、地上の僕にはなーんにも聞こえなかった。
その他
公開:19/05/09 21:28
schoo ゲリラ晴れ

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