深夜の２時「お願い、別れて！」と彼女は叫んだ。その後、俺は

「おい、若いの」
　青年は肩をビクッと震わせて振り向いた。
「何だ…監督ですか。驚かさないで下さいよ」
「朝一番から精が出るじゃないか」
「ええ…心配事があって…」
　青年は工事現場に開いた穴の底に視線を落としながら、口を濁した。
「そういうときはな、男は仕事に打ち込むのが一番なんだよ」
「そうですね、生活って言うか…自分の人生がかかってますからね」
　そこに、大きな排気音を立てて、コンクリートミキサー車が到着した。青年は、穴に少しずつ溜まっていくコンクリートを、じっと見つめ続けた。
「監督、もう少し、生コンを入れた方がいいんじゃないスか。なんと言っても、俺の人生が、かかっているんですからね」
「大丈夫だ、お若いの。お前さんが生きている間くらいは、何ともならんよ」
と、青年の肩を叩いた。
　もう大丈夫だ。青年は、現場監督に笑顔で答えた。それは、希望に満ち溢れた心からの安堵の笑顔だった。