ちょんまげ

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「俺、まげを落とすよ」
そう言うと、妻は泣いた。
息子が学校でいじめられていると聞いて、私たちは悩んでいた。
我が斎藤家は侍の家系だ。
だからどうしたと言われる時代だけど、我が家はそのことを大事にしてきた。
廃藩置県のあと、主君の勧めで先祖は農業をはじめた。武具が農具に変わっても、主君への忠誠と髪型だけは変わることがなかった。
祖父は生涯ちょんまげを貫いて死んだ。落としたまげは今も仏壇にある。農家になることを拒んだ父は、ちょんまげのままで会社勤めを続けた。
野球少年だった私は、ちょんまげ姿のキャッチャーとして高校野球からプロ入りし、大リーグでもプレーをした。今は解説者としてちょんまげでテレビに出演している。
絶やしてはいけない。
そんな思いがバットのように折れたのは、息子をいじめていた少年が主君の末裔だと知ったからだ。
「ご先祖さまが泣いている」
私の言葉に、彼は言った。
「やっぱ捕手的」
公開:19/05/09 16:36

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