背中を落とす

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 こんな夢をみた。
 ぶよぶよとした階段の踏板の上に横臥している。蹴込板に背を押し付けるようにして、上段の踏板の僅かな出っ張りを庇代わりに、流れ落ちてくるドロドロしたものを避けている。
 ベチャッ、といって真っ暗になる。頭を垂れて体育座りをする背中が落ちてくるからだ。僕はその背中をつねり、千切った肉片で餓えを満たすと、背中と腕とを突っ張って背中を下段へ落とす。ベチャッ、と音がする。
 僕は、頭を垂れた体育座りの背中を落とすことを生業としていて、ペンギンに見つかりさえしなければ、住込みの終身雇用が約束される有期契約を先月更新したばかりだった。
 にもかかわらず、僕は背中を押され、庇から押し出された。ドロドロしたものを浴びたくないから体育座りをして頭を垂れた。すると誰かが僕を下段へ落とす。次の段でも、また次の段でも…
 ぶよぶよとした階段を一段ずつ落ちるたびに、耳元でペンギンの羽音が聞こえる。
その他
公開:19/05/07 13:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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