息吹

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目が覚めてしまった。固い殻に包まれ、何層にもぎゅっと折り畳まれた身体。自分が呼吸している音を、こんなにも近くに感じ、鼓動は細部にまで響く。

ここは自分の呼吸の音と、身体とだけ対話する世界。とんでもなく孤独な世界。

覚めた、覚めてしまった。外に出たい。空気を大きく吸い、伸びをしたい。日を浴びたい。生きたい。溢れて止まらないのに固い殻はそれを許してくれない。まだダメと押し込める。分かってる。こんな日々にも終わりが来る。今はただ、待つ時だ。

どれだけそうして過ごしただろう。

そろそろかしら、殻は言った。3日後、殻の力は弱まり、だからそれを裂いた。

刺激の強い光が差し込む。畳まれた身体は解放され、折れないようにゆっくり、殻を押し退けながら広がる。

隣には生き急ぎ凍り死んだ芽。下は鹿に噛られた芽。

しかし世界は明るい。淡い木々の色、匂い。その一端となった。今度こそ、深く息を吸い込んだ。
公開:19/05/07 06:46
更新:19/05/08 08:04
モデルはとちの木

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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