香魚

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 鮎は岩に着いた苔を食べるため川魚特有の泥臭さがなく、香りが良いことから香魚とも呼ばれる。

 川沿いの料理屋の店主が私の前に出したのは、解禁になったばかりの鮎。
「これがうちで養殖した新しい香魚です。苔ではなく別のものを食べさせて香りを付けてあります」
 清流の音を聞きながら、天ぷらになった小振りの鮎を一口食べると、華やかで甘い香りが広がる。
「薔薇?」
「ご名答。うちの鮎には初夏の花の香りが付けてあるのです」
 次の鮎は茉莉花。ラベンダー。梔子。
 なぜだろう。こんなにも華やかで多様な香りなのに、郷愁を感じる。私はそっと目を閉じて、記憶の糸をたどった。

 ずっと帰っていない実家。思い出の中の両親が笑顔で出迎えてくれる。
 庭の花? 違う、うちはマンションだった。
 なんだろう。水の流れる音、花の香。懐かしい温もりに癒される……

 ああ、思い出した。

 実家の風呂の入浴剤の匂いだ。
その他
公開:19/05/07 01:38
更新:19/06/12 17:34

堀真潮

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tamanegitarou1539@gmail.com

 

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