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その時は、どうして開いているのかと思っただけでした。
うちは在郷の農家で、敷地には、母屋と別に、木造の蔵がありました。
風雪に晒されて瓦も傷み、板はささくれ腐食し、半ば朽ちた蔵。材の同じ表戸と、奥にもう一枚、渋塗りの扉。釘に錆びた鍵が下げてありました。
渋塗りの扉は、蔵戸と云う昔の錠で、丸い盤に、菊花を模した様な金具、鍵穴、用途の不明なゼンマイが付いていました。取っ手も引き口も無く、重く、鍵を挿したままでないと開け閉め出来ない扉。
内からは開かない。その一つだけ頭に残りました。
どうして開いているのか。
開け放しの表戸を入り、一寸程の隙間に指を掛け、不意に中を見たい誘惑に駆られました。両手を突っ張ると、扉はぎぎと軋み、人の通れる幅に開きました。
中に踏み込み、再び思ったのです。
どうして開いていたのか。
鍵穴に鍵が挿していなかったのに。
後ろ手に探った扉は、固く閉じていました。
うちは在郷の農家で、敷地には、母屋と別に、木造の蔵がありました。
風雪に晒されて瓦も傷み、板はささくれ腐食し、半ば朽ちた蔵。材の同じ表戸と、奥にもう一枚、渋塗りの扉。釘に錆びた鍵が下げてありました。
渋塗りの扉は、蔵戸と云う昔の錠で、丸い盤に、菊花を模した様な金具、鍵穴、用途の不明なゼンマイが付いていました。取っ手も引き口も無く、重く、鍵を挿したままでないと開け閉め出来ない扉。
内からは開かない。その一つだけ頭に残りました。
どうして開いているのか。
開け放しの表戸を入り、一寸程の隙間に指を掛け、不意に中を見たい誘惑に駆られました。両手を突っ張ると、扉はぎぎと軋み、人の通れる幅に開きました。
中に踏み込み、再び思ったのです。
どうして開いていたのか。
鍵穴に鍵が挿していなかったのに。
後ろ手に探った扉は、固く閉じていました。
ホラー
公開:19/05/07 02:00
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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