蔵の戸が開いている……

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その時は、どうして開いているのかと思っただけでした。

うちは在郷の農家で、敷地には、母屋と別に、木造の蔵がありました。
風雪に晒されて瓦も傷み、板はささくれ腐食し、半ば朽ちた蔵。材の同じ表戸と、奥にもう一枚、渋塗りの扉。釘に錆びた鍵が下げてありました。

渋塗りの扉は、蔵戸と云う昔の錠で、丸い盤に、菊花を模した様な金具、鍵穴、用途の不明なゼンマイが付いていました。取っ手も引き口も無く、重く、鍵を挿したままでないと開け閉め出来ない扉。
内からは開かない。その一つだけ頭に残りました。


どうして開いているのか。
開け放しの表戸を入り、一寸程の隙間に指を掛け、不意に中を見たい誘惑に駆られました。両手を突っ張ると、扉はぎぎと軋み、人の通れる幅に開きました。

中に踏み込み、再び思ったのです。
どうして開いていたのか。
鍵穴に鍵が挿していなかったのに。

後ろ手に探った扉は、固く閉じていました。
ホラー
公開:19/05/07 02:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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