辞書ロック・ホームズⅡ

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「貴方、国文学部の学生ね」
先まで座っていた席の、向かいに腰掛けた老婦人が、忘れ物を返しざま言った。
「通信教育の聴講生です。なぜお判りに?」
古い国語辞典。記名も書き込みもない。第一、僕の姿で『学生』という答えが導けるだろうか。
「ご覧の通りの中年です。このホームには、先月中途で入って、貴方とは初対面だ」
婦人は金縁の眼鏡を上げ、皺の奥からモナリザの様に微笑った。
「その辞書。研究者が持つには一般向けで、本屋や収集家には扱いが雑。作家や出版業は、助詞・助動詞解説や、巻末付録まで使い込まない。漢字表は比較的きれいだから、漢和辞典も別に所持。つまり日本語主体。商売でなく、常に辞書を持ち歩く。以上の条件に照らすと、現役大学生、かつ国文学の確率が高い」
まるで探偵の推理劇だ。驚きと同時に心が踊る。
「貴方のお名前は?」
細い指が、辞書の表紙――監修者名を指す。
頬が熱くなり、猫背がぴんと伸びた。
ミステリー・推理
公開:19/05/07 01:00
更新:19/05/07 01:00
老人ホームの辞書探偵と 助手(?)学生 続くか否か、紙のみぞ知る(笑)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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