ラクダ教

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 寺田の机に「ラクダ」というメモが見える。
 改元を挟む十日間もの連休中。オフィスはもちろん空っぽだ。
 ピーッ! 誰もいないオフィスに点滅する留守電の着信ランプ。
「寺田さん。ヒトコブ教です。救い主は唯一なのです。神は砂漠と化したエデンに箱舟としてヒトコブラクダを遣わ ガッチャ!」
 唐突な静寂の中、赤いランプが明滅する。あたかも砂漠を流浪する民を導びくかのように。
 ピーッ! 平安は一時でしかない。立て続けの着信。誰もいない空間に、得体の知れぬ声だけが響く。
「寺田さん。我がアジアが中道をもって世界を導く時です。分け隔てなく分かち合う源泉こそが二ですから。フタコブ ガッチャ!」
 寺田よ。お前はこっちを断って、そっちのどっちに決めたんだ?
「ノーノー脇坂さん。修行中、会社のこと駄目ね」

 これは、「七泊八日ラマ教修行旅行」の最終試験「想見の法」の実技の最中に見聞きした出来事である。
その他
公開:19/05/05 12:58

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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