鐘の音

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海辺から、鐘の音が聞こえてきた。
それはこの街を象徴する白い鐘の音で、私の耳は自然とそちらに向いた。

もしかしたら。

もしかしたら、あの人がこの街に来て、それを告げるために鳴らした鐘だったのかも。
浮かんだその気持ちに嘘はつけない。
もう一度鐘が鳴った時、白いパンプスは歩き始めていた。
人の波を越えて、階段をひとつ飛ばしに降り、建物の隙間から見える海へ。

証拠はなかった。
願いだけが胸に詰まっていた。

けれど、鐘のもとには子どもたちが駆けていて、ただ鐘を鳴らして遊んでいるだけだった。

当たり前だけれど、そんな都合よくはいかないものだ。
私は手すりに肘を乗せて、ひとつ息をした。

私、あの鐘が鳴る度こんなになるのかな。

少し擦り切れた足の甲をさすりながら、私は独りごちた。
いつもの待ち合わせ場所に、あの人はもう来ない。
わかってるはずなのにね。

白いワンピースが風になびいた。
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公開:19/05/05 00:48
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