ハイドランド・シーク⑩

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「またそんな所にいる」
「こっち来ないで」
紫陽花の影に座り込んだら、動けなくなった。
父の葬儀でも、同じ様なやり取りをした。あの時は自分で立った。今回は無理だ。
「さっきは言い過ぎました」
「来ないでって言ってるの!」
「そういうわけには行きま……」
足が停まる。気付かれたのを私も気付いて、顔が見られなかった。

ジャケットがお腹に落ちた。
「美咲君!?やめてよ、やだ」
「病人は意地張らない!」
病気じゃないとも返せない。暴れれば余計に状況が悪化する。
息の合わないお姫様抱っこは、膝と腋に体重が掛かって痛かった。それで腹痛が紛れるでもなし、恥ずかしくて泣きたかった。
大して変わらない細い体で、よく持ち上げたものだ。そう思ったのは、部屋に運ばれ、着替えも済んでから。火事場の馬鹿力だろうけれど、男の人なんだな、と感じ、敗北感だか、罪悪感だか解らない涙が、持って来てもらったコップの水に落ちた。
青春
公開:19/05/02 18:03

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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