ハイドランド・シーク⑨

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奪われた紙切れが、ぐしゃぐしゃに丸めて捨てられるのを、呆然と見ていた。
「人の荷物漁るのは、泥棒ですよ店長」
茶色いビー玉が、軽蔑の温度で射竦めた。
「美咲君。……お義母さんの名前、訊いていい?」
「美咲すみれ。それが何か?」
お腹が痛い。気持ち悪くて吐きそう。
美咲君じゃない。興味本位と都合で人の傷に爪を立て、それが許容されると何処かで甘えていた。最低なのは私だ。
机に突っ伏す私に、視線の鋭さが翳る。
「……うららちゃん?ちょっと、大丈夫ですか」
頭半分高い影を突き退ける。
悪いのは私なのに、どうして心配なんかするの。
私が雇い主だから?美咲君にとって私が、最初と同じ手の掛かる子供でしかないから?4つしか違わないくせに。痩せ我慢して大人ぶって馬鹿みたい。

ああ、それでかと気付いた。
私が美咲君の、やる事なす事癇に障るのは。
美咲君と私。根っこに抱えた脆いところが、嫌なくらい似てるから。
青春
公開:19/05/02 18:01

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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