ハイドランド・シーク②

「私、あの人嫌い」
頬を膨らませる私に、お父さんは弱った顔で、伝票整理の手を止めた。
「真面目で、仕事が丁寧で、知識豊富で、接客も上手い。有望株だろう」
そんな事解ってる。未経験のくせに即戦力。おまけに貴重な男手。バイトにしておくのが惜しいくらい。
「美咲君は、何も言って来んぞ？」
「猫被りなだけだと思う」

『あの、美咲ちゃん。水やりは表面だけじゃ駄目よ』
『重さも見てますよ』
さも当然の口振り。表面が湿っても、中が乾いている事はある。水をやった重さを憶えて、感覚で量る方が確実。特に鉢の紫陽花は水切れしやすい。
――解ってるけど。
『あとね。せめて美咲『君』になりませんか、うららちゃん？』
自分の見た目を棚に上げて。中学生女子の誤解を鼻で笑った。
４つも上のくせに。子供っぽくて慇懃無礼で腹の立つ奴！
「そう腐るな。俺もいつまでも若くないぞ」
ファイルを戻す手が重たげで、文句を飲み込んだ。