兄ちゃんと雨

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あ、雨だ。手のひらを上に向けたら、隣で兄ちゃんが変なことを言った。

「お天道さまがくしゃみしなさったな」

なんと。たしかに細かな雨粒はそれに近いが…。徐々に強まる雨脚に兄ちゃんは続けた。

「こりゃあ、よだれまで垂らしおっと」

雨はいよいよ本降りに。次は何かと期待すれば、兄ちゃんは黙ったまま。

「んじゃあ、寝小便かい?」

私のしぼり出した答えに、兄ちゃんは吹き出した。そして、雨に濡れた顔を両手でゴシゴシとこすった。

他愛もない話だ。でも、あれから雨を見るたび、私の頭には、お天道さまの粗相する姿がふっと思い浮かぶ。べつに、わざわざ誰かに言ったこともなかったが。

あら、雨。

病院の中庭で、車椅子を押してくれていた孫娘がつぶやく。兄ちゃん…、もう勘弁してくれよ。そっちに行ったらさ、あの話でまた笑いたいな。

「じいじ、雨がそんなおかしい?」

そりゃ、そうさ。ゲリラ豪雨だぜ。
その他
公開:19/04/30 21:44

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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