死の感触

8
8

どいて、と背後から軽く肩に触れた。
瞬間、同僚の彼はタイミングを合わせたようにうめき声を上げてうずくまり、オフィスの床に伏した。
私には、丸まった彼の背中だけが見えていた。

動揺する私を尻目に周囲は動き、救急車が呼ばれて搬送が行われたが、治療の甲斐もなく彼は息絶え、三十年あまりの生を終えた。心臓発作だと聞いた。

私の手には、その彼の肩の感触が今もなお残り続けていた。
彼の死の原因は病であり、私に責はない。それは自他ともに明白だった。
ーーそれでも、私は彼の肩の硬い感触と、仕事疲れから発してしまった自身の邪険な声を、今もなお忘れられずにいるのだった。
その他
公開:19/04/30 21:40

徳田マスミ

ショートショートを好むのです。
コメディからブラックまで、色んな話を書きたいと思います。

Twitterアカウント:@tokku2113
https://twitter.com/tokku2113

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容